私が洋裁初心者のころに作ったフライトジャケットについて、振り返ろうと思います。
- すっきりとしたショート丈で、やや丸みのある独特のシルエット。体に程よくフィットする無駄のないデザインで、どんなスタイルにも合わせやすい普遍的な魅力があります。
- 左袖のファスナー付きのシガレットポケットは、MA-1のアイコンとも言える象徴的なディテールです。機能性から生まれたこのデザインが、全体のアクセントとして存在感を放ちます。
- 一つひとつの工程が丁寧に設計されていて、決してサクッと作れる難易度ではありません。工程が多く根気が必要な分、完成したときのクオリティの高さは、既製品に引けを取らない本格的な仕上がりになります。
レベル1で挑むラスボスジャケット
洋裁を始めて間もない頃、人は時として、自分の実力を大きく見誤った壮大な計画を立ててしまうものです。
私にとってのそれが、嶋﨑隆一郎さんの著書『ミリタリーウェアの本』から作った「MA-1タイプフライトジャケット」でした。
当時の私は、まだ服を数着しか作ったことがない正真正銘の初心者。
それにもかかわらず、万能なデニム素材で、自分だけのオリジナルMA-1を作りたいという純粋すぎる野望を抱いてしまったのです。
これが、その後に続く長い戦いの幕開けでした。
スタートラインという名のゴール
この作品の最大のこだわりであり、同時にすべての悪夢の始まりとなったのが、キルティング生地から自作するという選択でした。
市販のキルティング生地では理想の素材を見つけられず、デニムに綿(わた)を重ね合わせ、自分で斜め格子状にひたすらステッチを入れていくという、まるで修行のような工程を選んだのです。
狂いなく真っ直ぐに針を進める作業は、数週間に及びました。
ようやくひと通りステッチを入れ終えたとき、私は思いました。よし、これでやっとスタートラインに立てたぞと。
そしてその瞬間、すべてのエネルギーを使い果たし、心がポキリと折れました。
そこから半年間、私の洋裁活動は完全に休止します。
部屋の片隅には、魂を吸い尽くされたような自作キルティング生地が置かれていました。
その傍らを通る時、私の心は完全に「無」でした。
目に入っているのに何の感情も湧いてこない、ただの空気のような存在。
あれは今思えば、心身ともに燃え尽きていたのだと思います。
ミシン相手の綱引き
半年間の昏睡状態からようやく目覚め、制作を再開した私を待っていたのは、さらなる物理の限界でした。
MA-1の特徴でもある、あの立体的な袖の組み立てです。
すでに筒状になっている袖にステッチを入れるというギミックが、初心者にはどう考えても不可能な領域に思えました。
ミシンのアーム下に塊となった生地をねじ込み、縫い進める先から布をめくり、ひっくり返し、無理やり針元へと送り込みます。
もはや普通に椅子に座って作業することなどできず、最終的にはテーブルの前に立ち上がり、布と全力で綱引きをしているような姿勢になっていました。
おまけに、自分で仕込んだキルティングの綿が付いているせいで、それが一針ごとにミシンに引っかかります。
生地を力任せに引っ張って縫える状態をようやく確保しては、手押し車を一歩進めるように、一針、引っ張ってまた一針……。
今振り返っても軽くトラウマになる、孤独な力仕事でした。

響く破裂音と奇跡の隠蔽工作
そんな満身創痍の終盤戦、新たな悲劇がポケットのドットボタン付けで起こります。
自宅の部屋でハンマーを振り下ろしたときでした。
集合住宅の全棟、いや全住民の脳内にまで突き刺さるのではないかという、凄まじい破裂音が響き渡ったのです。
その音の大きさに瞬間的にひるんで、ボタンは変な角度で甘く入り、修正もできなくなってしまいました。
そして、何を血迷ったのか、フラップ側と受け側でボタンの凹凸を逆に付けてしまうという、さらなる痛恨のミス。
歪んであべこべのボタンは、絶対に留まらないボタンとして、居座ることになりました。
しかし、ここで奇跡の帳尻合わせが発生します。
そもそもボタンをフラップの表に貫通させず、裏フラップ側(見えない側)にだけ付けていたのです。
これはボタンの位置と周囲のステッチの、見た目のバランスを気にした当時の私の判断だったのですが、おかげでボタンが歪んでいることも、凹凸が逆なことも、外からは一切見えない仕様になりました。
後からなんとか帳尻が合っただけですが、我ながらナイスな隠蔽工作だったと自賛しています。

クローゼットのほろ苦い記憶
そんな数々のドラマという名の修羅場を経て、完成したフライトジャケットですが、初心者が作ったにしてはなかなか器用に、そして頑丈に仕上がりました。
丁寧に工程を積み重ねていくレシピだったからこそ、クオリティも抜群です。
完成したときの「やり切った……!」という複雑な達成感は、今でも忘れられません。
自作キルティングの保温性は素晴らしく、冬でもこれ一着で十分に過ごせるほどの防寒性を発揮してくれました。
気に入って、当時は本当によく着用していました。

現在は悲しいかな、私の体型が変わってしまったため着ることはできません。
それでも、クローゼットに眠るこのジャケットを見るたびに、立ち上がってミシンと綱引きをしていたあの頃の野生のエネルギーを思い出します。
今の自分に合うサイズのものがほしいのですが、あの一連の作業は二度とごめんなのです。
洋裁の厳しさと楽しさのすべてを叩き込んでくれた、私にとっての思い出の一着です。


ハンマーは潔く振り切ることが大事
苦い思い出ですね
※着画イメージはAIで生成しています
